シンガポールツアー DAY3・4①|反逆のアシスタント

アシスタントから送られてきた電車のスケジュール。よく見ると、到着時間がすでにおかしい・・・

いよいよシンガポールツアーも最終日。

この日の夜には深夜便で日本に帰国するため、少しゆっくり目の、ホテルのチェックアウト時間11:00ロビー集合となっていた。

私はその前に、前日確認をしておいた徒歩10分先にあるコンビニに再び赴き、クレジットカードを持たない子供たちのため、電車用のICカードを必要枚数分購入してスタンバイ。

一部の中学生が時間前になっても連絡が取れず、同行していた高校生たちが部屋へ起こしに行き、片付けや荷造りを手伝ってくれるということがあったが、無事に時間通りに全員揃う。

一人の高校生の「来た時以上に綺麗にするのは当たり前ですから」という言葉に心打たれ、頼もしさを感じたものだ。

最寄り駅までは徒歩20分程度。

打合せ通り現地アシスタントに先導をしてもらい、予定通りに出発する。

最初の目的地は「シンガポール風」の本格的な中国料理を楽しめる「スプリングコート」。1929年創業でシンガポールで最も歴史があり、伝統的な広東料理にシンガポールの味を取り入れた料理は、本場の中国料理に引けを取らず、名だたるセレブをも唸らせているイチロー先輩イチオシのレストランだ。

せっかくシンガポールまで来ているのだから、ホーカーセンターだけではなく、一回くらいはちょっとリッチなところで食事もありだなと思い、行程に組み込んでいた。

団体なので、こちらも事前に本店とメールでやりとりをし、12:00に予約を入れていた。

近代的なビルの谷間にオリエンタルな建物が並ぶ

しかしながら、最後尾について列が間延びしているとは言っても、全体的に随分とペースがゆっくりで次第に嫌な予感がしてくる。
大将やHP会社の社長さんにしんがりをお願いし、アシスタントのところに向かった。

「Kさん、このペースで間に合いますか?」
「いえ、間に合いませんよ。」

間髪入れず、他人事のような返事が返ってきた。思わず「どういうこと?????」と頭の中にはてなマークがいっぱい浮かぶ。

「間に合いませんよ、じゃなくて、間に合うように先導してくださいよ」
「そんな指示、最初にされていないですから」

まったく意味が分からない。なぜそのような回答が出てくるのだろうか。

「最初にスケジュールも渡して、12:00に予約というのも伝えていますよね?間に合わなかったらどうするんですか?」

私は困惑の色を隠せず、一方で相手は徐々にぶぜんとした不機嫌な表情になってくる。

「知りませんよ。」

「知らないってどういうことですか⁉もっと責任感持ってやってくださいよ」

「だったら自分でやればいいじゃないですか。元々、僕は通訳や先導などはしなくて良いと聞いていましたから。」

「じゃぁ、昨日の打ち合わせの段階で断ればいいじゃないですか。なぜそこで引き受けておいて、今になって『できない』なんていうことになるんですか?」

「だったらあなた、自分で駅までの経路や路線を調べられたんですか?」

「できないと断られていたら、自分で夜中に調べるくらいのことはしますよ」

「どうですかね。できないと思いますよ。」

完全にかみ合っていない。
また、昨日までの同一人物とは思えないほど突然の変わりように、開いた口が塞がらない。

一角には買い物・食事・歴史観光など多彩なスポットが集まっている

彼、Kさんは日本人でシンガポール在住の20代前半の男性。

イチロー先輩の知人でもある彼のおばを頼ってシンガポールで就職する予定だったところ、理由不明ながら内定が取り消され、現在はワーキングホリデイの就活中であることを昨晩の夕食の席で聞いていた。

こういうことが起こると、「理由不明」というのも妙に引っかかる。

こんなやりとりが延々と、駅に到着し一本遅い電車に乗っても続く。そのころにはもはや口論の域に達していた。

「とにかくここでは僕が雇い主なので、責任感持って最後までやってください。できないなら解雇して今回の報酬は支払いませんよ。」

「どうぞ、好きにしてください」

そう言う彼の声や手はブルブルと震えている。何を突っ張っているのか知らないが、ひょろっと背の高い彼は、実際は肝っ玉の小さそうな男なのだ。

電車内で小声とはいえ、近くにいる保護者様を含む何名かの参加者が心配そうにこちらを見ているのが視界に入る。

「ではまずはイチロー先輩に連絡をして事情の一部始終を話しますので」

「お店にはもう連絡をしたのですか?」

私がそれでも強硬手段に出ようとすると、彼から話題を変えてきた。

「さっきからしていますが、電話がつながらないので、メールをしています」

「わかりました」

「お店までの案内はお願いできますか?そこで落ち着いて話をしたいのですが」

「いいですよ」

年齢が半分も下にもかかわらず、なぜすべてちょっと上から目線なのか分からないが、なんとか最悪の事態は回避することができ、電車は予定より10分程度遅れて目的駅にたどり着いた。